直腸腟ろう・肛門括約筋機能不全

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おひとりで悩まないでください

「直腸腟ろう」「肛門括約筋機能不全」は治療できます

「出産後、腟から便やガスがもれるようになった」──

そんな症状があったら、「直腸腟ろう(直腸膣瘻)」「肛門括約筋機能不全」かもしれません。

どちらも出産時(経腟分娩)に会陰が損傷することによる病気で、経腟分娩の1万人に1人が発症するとされています。

日本では現在、年間約77万件1の出産があり、うち経腟分娩が約58万件2であることから考えて、年間約60名が新たに発症している計算になります。

※1厚生労働省令和4年(2022) 人口動態統計月報年計報告

※2厚生労働省令和5年(2023) 周産期医療の体制構築に係る指針

しかし、この病気はまだ広く知られておらず、そもそも婦人科と肛門科のどちらを受診すればよいのか迷うなど、誰にも相談できずに悩んでおられる患者さんも多いようです。

症状のことを誰にも言えずに未治療のままの患者さんも少なくないと思われます。放置すると、悩みからうつ状態になったり、パートナーとの関係がうまくいかなくなるなど、症状そのもの以外にも困難が生じる可能性があるため、早めに受診し、治療や手術を検討されることをお勧めします。

直腸腟ろう

直腸腟ろうとは

直腸腟ろうは、経腟分娩後に会陰部が損傷し、それが原因で腟と直腸の間に亀裂(裂傷)や瘻孔(トンネル)ができる病気です。

これにより、腟と直腸がつながり、腟からガスや便などが漏れることがあります。特に、下痢などの便がゆるい時に漏れやすく、その頻度は裂傷の状態により、個人差があります。

このほか、尿漏れや、排便時や性交時に痛みがある、漏れた便から細菌感染を引き起こし、パートナーに感染することもあるなど、放置すると日常生活に支障をきたします。

経腟分娩による会陰裂傷は、軽度(III)であれば縫合により完治しますが、筋肉が切れたり、裂傷が直腸にまで及んだ場合(IIIIV)、直腸腟ろうを起こすことがあります。この他、がんやがんの手術、炎症性腸疾患が原因で直腸腟ろうになる場合もあります。

一般的な直腸腟ろうの治療

治療方法は一般的に2種類あります。分娩による会陰裂傷の場合は手術を行います。がんや腸疾患などの病気が原因の場合は、原因となった病気の治療を行います。

手術方法はいくつかありますが、現在の日本では、瘻孔(トンネル)を切除し、閉鎖する方法で手術を行う医療施設が多いのが現状です。しかし、この方法では再発率が高く、術後に人工肛門が必要となる場合もあります。また、手術後の分娩は帝王切開を余儀なくされる場合がほとんどです。

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当院の直腸腟ろうの治療

当院では上記の一般的な治療と違い、断裂した会陰体を縫合し、再建する「会陰体再建手術」を実施しております。

腰椎麻酔を行い、ジャックナイフ体位(うつ伏せでお尻を突き出すような体位)で直腸と腟の間にメスを入れ、丁寧に直腸壁と腟とを分離し、左右に断裂した会陰体を見つけて縫合していきます。非常に繊細な手術ですが、熟練した技術により約2時間ほどで手術が完了します。直腸腟ろうの状態には個人差がありますが、基本的には同じ手術を行います。

手術の翌日から食事ができ、通常、術後約1週間で退院可能です。人工肛門や長期絶食などの負担もなく、術後に再び経腟分娩した患者さんもいらっしゃいます。

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肛門括約筋機能不全

肛門括約筋機能不全とは

肛門括約筋機能不全は、肛門括約筋が様々な原因で弱くなり、便やガスが漏れてしまう病気です。

原因は、加齢により、肛門括約筋がゆるくなることが多く見られますが、そのほかに脊髄などの神経の病気が原因の場合や、経腟分娩による会陰裂傷が原因で、肛門括約筋が切れてしまい機能不全となってしまうケースがあります。

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肛門括約筋機能不全の治療

経腟分娩による会陰裂傷が原因の場合、直腸腟ろう同様、「会陰体再建手術」を行うことにより、会陰体に付着する肛門括約筋の機能を回復させることができます。手術方法は直腸腟ろうとほぼ同じです。

一般的に、肛門括約筋機能不全の治療方法として、切れた筋肉を探し、重ねて縫う「オーバーラッピング」と呼ばれる手術が行われるケースが多く見られますが、再発率が高く、人工肛門が必要となることもあります。また、人工肛門以外にも、絶食や中心静脈からの高カロリー輸液、長期入院など、患者さんにとって、身体のみならず経済的にも時間的にも負担の多い治療となってしまう場合もあります。しかし、明らかに会陰裂傷が原因の場合では、CTMRIなどの画像検査による事前検査も必須ではありません。会陰体再建手術を行うことにより、身体的、経済的、時間的に負担が少ない治療を受けていただくことができます。

おわりに

当院では、約30年にわたり長岡京市の橋本医院(20245月閉院)の橋本京三先生と当院の水黒知行理事長により術式改良を重ね、このような人工肛門を作らず長期絶食も要しない、患者さんの心身に負担の少ない手術治療を行っております。そのため当地には東北から沖縄まで、全国から手術を希望する患者さんが来院されています。

お一人で悩まれることなく、ぜひ多数の症例数を持つ当院にご相談ください。

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(文責:外科 村上 耕一郎)

当院における会陰体再建手術症例数(2024年9月現在)

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